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vol.36

がん研有明病院 名誉院長に聞く
シリーズ 第3回
(全3回)



「『100%ガイドラインを遵守して治療しています』
という病院があったら、それは愚かな病院で、
医者が何も考えていないということです」
がん研究会有明病院 山口俊晴名誉院長

胃がんの名医として、がん治療の最前線で診療、手術を行ってきたがん研有明病院の山口俊晴名誉院長から、
がんの最新動向と知っておきたい知識について聞く全3回シリーズ
第3回は「がんの正しい知識」がテーマです。

「「『100%ガイドラインを遵守して治療しています』
という病院があったら、それは愚かな病院で、
医者が何も考えていないということです」
がん研究会有明病院 山口俊晴名誉院長

胃がんの名医として、がん治療の最前線で診療、手術を行ってきたがん研有明病院の山口俊晴名誉院長から、
がんの最新動向と知っておきたい知識について聞く全3回シリーズ
第3回は「がんの正しい知識」がテーマです。


欧米より低い日本人のがん検診受診率

がんを適切なタイミングで治療するためには、がん検診を確実に受けることが非常に大切です。
日本人のがん検診受診率は欧米に比べて低くなっています。
アメリカでは医療費が高いこともあって、多くの人は積極的に検診を受けます。
それに対し日本人は保険証さえあれば、比較的安価に検査や治療を受けられるため、
予防や検診に対する意識が低いのかもしれません。

たとえば、アメリカでは内視鏡検査の価格が日本の4~5倍以上もします。
しかも、保険会社による診療抑制がかかっていて、保険会社がOKしなければ、
治療や検査を受けることができません。日本のようにいつでも気軽に、診察や検査を受けることが難しいのです。


日本の医療保険制度はとても優れていると思います。
お金がなくて手術ができないケースは、
移植でドナーの問題があるなど一部の人にかぎられます。
高額療養費制度があることから、患者の費用負担は一定額までに抑えることができます。

ネットの情報に騙されてはいけない

最近は、がんに関する情報が溢れていて、一般の方が正しい情報にたどり着きにくい状況があります。
インターネットや書籍などでは一見すると、まともなことがわかりやすく書いてあり、
「よい情報ではないか」と思ってしまうのですが、だんだん最後のほうまで見ていくと
何かの薬や商品に誘導されることがあります。
非常に巧妙にできていて、本物と偽物を見分けることが難しく、医療者でも騙されてしまうほどです。これは情報社会の宿命なのかもしれません。

がんに関する正しい情報を知りたい場合は、きちんと情報元を確認して、国立がん研究センター日本対がん協会など、公的機関が管理しているサイトなどを利用するようにしましょう。
がん患者をサポートする体制も整ってきていて、全国各地にあるがん診療連携拠点病院の相談窓口で対応して、質問に答えてくれます。

民間では、がん患者やその家族から相談を受けたり、がん患者同士が交流できる場として、マギーズ東京という施設があります。看護師や心理士など、がんに詳しい専門スタッフがいて、無料で利用できます。

マギーズ東京は、イギリスの造園家マギー・K・ジェンクスが自身のがん体験をきっかけに、「治療中でも、患者ではなく一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内がほしい」と願い、1996年に創設したマギーズセンターがモデルです。がん患者同士が話し合える場は非常に重要で、こうした取り組みが広がることが期待されます。
保険会社の中には、交流サイトを作り、サービスを提供しているところもあります。
最近では、病院に退院支援室ができて、患者の退院後のサポートをするようになりました。
これは、大きな進歩だと思います。


■認定NPO法人マギーズ東京
■がん情報サービス「がん診療連携拠点病院などを探す」

標準治療は標準的な体力のある人に、
現時点で最も推奨される治療法

もし、がんの診断を受けた場合は、右往左往せず、自分のがんがどういう状態であるかを知ることが大切です。
がんの種類や進行度、性格がわかれば、治療法はだいたい決まってきます。
治せるがんも増えてきていますから、必要以上に恐れず、適切な治療を早く受けることがとても重要だと言えます。


病院で治療を開始する場合はまず、三大治療(手術、放射線治療、抗がん剤治療)の中から適切な方法が勧められます。
これらは「標準治療」と呼ばれ、科学的根拠(エビデンス)に基づいた、現在利用できる「最良」の治療のことです。


医療においては”最先端“が最も優れているとはかぎりません。
最先端の医療は、その効果や副作用などを臨床試験で評価し、標準治療より優れていることが証明されれば、新たな標準治療となります。
最先端の治療でも臨床試験で有効性が証明されていないなら、標準治療の方が推奨されることになります。

標準治療は診療ガイドラインにおいて示されています。
ガイドラインは標準的に推奨される治療法を提示する案内書のことで、医療者と患者の意思決定を支援する目的で作成されます。

ガイドラインはすべての人が必ず記載通りに、一律に治療しなさいというものではなく、患者の年齢や抱えているリスクなどによって、治療法を変えていいのです。
患者の状態は千差万別ですから、ひとつの治療法がすべての人にフィットすることはあり得ません。
ガイドラインはだいたい7~8割の人に適合するように作られています。


たとえば、山登りにはいくつかルートがありますが、高齢で体力の弱い人はなだらかな道から登ったほうがいいでしょうし、
若く元気な人は直登してもいいのです。自分がどのルートで登るかを判断するためには標準のルートが必要で、治療における標準のルートを示したものがガイドラインです。

そのため、「100%ガイドラインを遵守して治療しています」という病院があったら、それは愚かな病院で、医者が何も考えていないということです。

治療法は個々の患者のリスクや希望を踏まえながら、決めていくものです。
その判断を支援することが医者の使命ではないでしょうか。
ガイドライン通りにやったからといって、すべてがうまくいくわけではありません。

かつて、厚生労働省がガイドラインを普及させるために、施設ごとのガイドライン遵守率を出すと言い出しました。 僕は、「もし100%の施設があったら、あなたはそれをほめるのですか?」と反対しました。
それはガイドラインをよく理解していない人の考え方です。
ガイドラインは法律とか規則とは違い、標準的な指針にすぎないのです。


食事と運動でがんのリスクを減らす

どんなに予防をしても、絶対にがんにならないようにすることは不可能です。
ただ、予防できるがんもいくつかあります。ウイルスが原因の肝臓がん、子宮頸がん、ピロリ菌が原因の胃がんは予防できます。そのほかのがんも、きれいな水と空気、適切な食事と運動の習慣があれば、リスクはかなり減って、老衰との追いかけっこになるでしょう。

食事では新鮮なものを食べるように気を付けるとよいと思います。
ピーナッツなどのナッツ類につくカビが出す毒は、発がん作用を持ちます。
中国では食道がんが多発する地域があって、その地域で食べられていた漬物が原因だったとされています。
肝機能を悪くする漢方薬や、やせ薬などもありますが、怪しいものを口にしないことが大切です。

ハムやソーセージを食べるとがんのリスクが高まるという話もありますが、大量に食べなければ、大丈夫です。何でも食べすぎはよくありません。そういう意味では、カレーライスを食べたり、そばを食べたり、いろんなものを食べている日本人は、健康的な食生活を送れていると思います。

僕は好き嫌いなく何でも食べます。最近は脂っこいものが食べにくくなってきましたが、肉はとても好きです。あとは納豆ですね。

お酒が好きな僕のリスクは脳梗塞だと思っているので、納豆が血液をサラサラにしてくれると信じて、毎日食べるようにしています。
これにはエビデンスはありません(笑)。
好きなお酒を飲んで、食べたいものを食べて、元気に暮らして、それで病気になったら、仕方がないとあきらめています。
でも、お酒はいろいろなリスクがありますから、飲みすぎはいけません。
僕は悪い例だと思います。

運動では、1日8000~9000歩は歩くようにしています。
平日の通勤では3駅前で降りて歩きますし、土日は午前中に家内と一緒に1万2000歩は歩いて、お昼にビールを飲むのを楽しみにしています(笑)。
やはり、運動する習慣はとても重要で、特に大腸がんは運動している人のほうがかかりにくいことがはっきりしています。人間は動けなくなると、さまざまな機能を失いますので、日頃から基礎体力をしっかりつけておく必要があります。

がんになりたくない人は、ご自身の食事と運動など、生活習慣を見直してみるとよいでしょう。

 まとめ
・日本人のがん検診受診率は欧米に比べて低い
・がんに関して知りたい情報がある場合は、どこが情報元かをしっかり確認する
・医療の世界では、“最先端”の治療が必ずしも優れているわけではない
・食事、運動、生活習慣の改善でがんのリスクを減らすことができる

山口俊晴
(やまぐち・としはる)

がん研究会有明病院名誉院長
バリューHRビルクリニック院長

消化器専門医。1973年京都府立医科大学卒業。
2015年に公益財団法人がん研究会有明病院病院長、2018 年より名誉院長。2020年には、「人にやさしい検診」をコンセプトに検診サービスを提供する医療法人社団バリューメディカルバリューHRビルクリニックの院長に就任。
胃がんの「治療ガイドライン」の作成委員(初版から3版)を務め、NHK「今日の健康」「名医にQ」「チョイス@病気になったとき」などに胃がんの専門家として出演。著書に『がん患者・家族からの質問―担当医としてこのように答えたい』(へるす出版)などがある。

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今回は
“ほっこり 心身をすこやかに整える 55の小さなレッスン”
伊藤裕 著

※対象書籍は毎号変わります。

がんの治療方法として正しいものは?
  • ① 効果の証明されている標準治療のみを
     行うのが望ましい
  • ② 医師や専門家など複数の人の意見を
     聞きながら決定するのが良い
  • ③ がんが発見された場合は
     1日も早くに手術をするのが望ましい
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