「部位別予測がん死亡数(2021年)」(図)を見ると、男性は肺が1位(5万2,600人)で圧倒的に多くなっています。女性は肺が2位(2万5,400人)ですが、死亡者数の差は歴然です。肺はタバコの煙の影響を直接受けます。同じ人間でありながら男女でこれだけの差が出るのは、喫煙率の違いが原因です。
タバコはその成分が唾液に溶け込んで、唾液を飲み込むことで食道にべったりとはりつきます。
そこから少し薄まりはしますが、胃の中へ、さらに薄まって大腸にまで届きます。タバコは肺だけでなく、すべてのがんのリスクに影響することがわかっています。
がんで亡くなる人を減らしたいなら、新たな抗がん剤を開発するよりもタバコをやめさせることを優先したほうが効果的です。
しかも、タバコは受動喫煙で周囲の人にも迷惑をかけます。喫煙したらだいたい45分くらいは影響が残るため、
喫煙後45分は人と接触するべきではありません。それぐらい徹底的にやらないとダメだと思います。もし、大気汚染を心配しているのに、平気でタバコを吸っている人がいるとしたら、おかしな話です。
日本でも幸いなことに喫煙率が年々下がってきていて、僕らの世代で80~90%だった男性の喫煙率は30%を切っています。女性の喫煙率は7~8%くらいですが、男女ともにゼロになることが理想です。
僕は医学部時代からの親友が10人いて、すでに6人は他界していますが、そのうち5人はスモーカーです。70代までにこれほど多くの同級生が亡くなってしまうとは夢にも思っていませんでした。興味深いのは年代別の喫煙率で、70代以上はものすごく低くなっています。これはなぜかというと、喫煙者の多くは70歳になるまでに亡くなってしまうからです。タバコを吸っていた同級生が次々に早逝するのも、当然といえば当然なのでしょう。
ただ、恐ろしいのは、タバコを吸っていなくてもがんになるということです。タバコを吸っていなかった僕の同級生3人のうちの1人は、肉腫という特殊ながんができて亡くなりました。肉腫は加齢とともに増加するがんです。
がんは絶対にかからないようにするのは不可能ですが、タバコなどリスクとなる因子を遠ざけ、生活習慣を改善し、かかりにくくすることはできるのです。
まとめ
・がんは誰もがなり得る病気(生涯のうち男性で65.5%、女性で51.2%ががんになる)
・がんになる人が増えているのは、高齢者が増えたから
・がんになる時期をできるだけ遅くするという考え方も大切
・がんになる最大の要因はタバコ
第2回では「がん治療の最前線」をお届けします。