第2回は「乳がんとその検査方法」がテーマです。
「乳がん」は女性が発症するがんの中で飛びぬけて
罹患率が高く、死亡率は低いですが、再発する可能性があります。
がん、乳がんと共に生きていくために、そして「マンモグラフィ」と
「超音波検査」の状況に応じた選択方法について、がん治療の最前線で治療・手術を行ってきた、
がん研有明病院 山口俊晴名誉院長に話を伺いました。
日本の女性の乳がん発症は、他のがんと異なり発症年齢が若く、30歳頃から増加傾向になり、
40歳代後半から60歳後半までが罹患率のピークとなっています。
女性のがんの中でも乳がんの罹患率は突出して高いのですが、死亡率は大腸がんや肺がんと
比較して低く、比較的治しやすいがんといえましょう。
出典:公益財団法人 がん研究振興財団(がんの統計2022)
男性の乳がんは全乳がん患者の100人に1人程度と稀ですが、乳腺組織が少ないため
胸壁への浸入が早い場合も見られます。一方で男性の場合は、しこりなどがあれば、
触診により比較的簡単に発見できる可能性が高いです。
乳がんは増加傾向にありますが、その原因は未だ解明されていません。
生活習慣や食生活などの変化が関係しているのではないかと言われていますが、
胃がんにおけるピロリ菌のような明確な要因は特定されていません。
早期の乳がんの5年生存率は、がんのステージ1期で99%以上、3期の進行がんでも60%に
達します。つまり、乳がん早期発に発見できれば比較的治しやすい病気と言えます。
しかし、治療後5年生存することが、すなわち完治を意味するわけではありません。
乳がんは10年、20年後に再発する可能性もあり、治療によって延命ができているという
側面もあります。
さまざまな治療法が存在する乳がんは治癒しやすい病気と言えますが、それは同時に、
長期にわたり不安を抱え続けることになるかもしれない、患者にとって辛い病気でもあります。
それでも、前向きに捉え、慢性の疾患だと考えて付き合っていけば良いのではないでしょうか。
進行胃がんなどであれば、半年ほどで命を落とすケースも多いですが、乳がんの場合は、
抗がん剤、ホルモン療法、放射線療法など、さまざまな治療法が有効です。
特に抗がん剤の進歩は目覚ましく、多様な薬剤が開発されています。
これらの治療法を組み合わせ、状況に応じて変えていくことで、再発した場合でも
落胆することなく、慢性疾患として長く生きることが可能になります。
実際、遠隔転移があっても4割の方が生存していますし、再発の可能性を抱えながらも
人間的で充実した生活を送っている人はたくさんおられ、医療の進歩を実感します。
高濃度乳房とは、マンモグラフィで画像右側のように乳腺が発達して白く写り、乳がんを 見つけにくい状態を指します。発見しづらい状態ではありますが、異常なことではなく、 乳がんになりやすいわけではありません。また乳腺は加齢とともに減少していきます。
高濃度乳腺の場合、マンモグラフィではがんが見えづらい可能性があるということから、 超音波検査を併用した方が良いという意見もありますが、まだエビデンスは十分ではありません。
ただ、研究が進められているため、状況は変わる可能性があります。胃がんの内視鏡検査も 以前は検診として認められていませんでしたが、エビデンスが蓄積されたことで認められる ようになりました。超音波検査についても同様のことが起こるかもしれません。
国の決定を待つのではなく、先手を打つのも一つの選択肢です。特に、対策型の検診の
対象となっていない40歳未満の人は、どの検査が適切なのか分かりづらい状況です。
現状ではマンモグラフィを推奨しますが、若年者には超音波検査の方が適している可能性も
あります。
マンモグラフィ検診について
マンモグラフィ検診を受けることによって乳がんによる死亡率が低下することがエビデンスを もって示されています。そのため、自治体が行う検診でも推奨されており、問診と マンモグラフィを40歳以上の女性に2年に1回実施することがスタンダードになっています。
がんの兆候の一つに石灰化がありますが、マンモグラフィならば小さな石灰化でも発見する ことができます。
一方で、妊娠中の放射線被ばくについて心配する声もあります。最初から分かっている場合は 検査を受けることはやめた方がいいかもしれません。しかし、マンモグラフィの線量は非常に 少ないため、胎児への影響はほとんどありません。知らずに検査を受けてしまった場合でも、 過度に心配する必要はありません。
超音波検査について
超音波検査にも多くの利点があります。マンモグラフィに比べ乳房を圧迫する痛みはなく、 放射線被ばくもありません。若い世代は高濃度乳房の割合が高いため、超音波検査を選択肢と するのは妥当と言えるでしょう。ただ、実施する人の技術力の差が顕著に出るようなので、 信頼できる医療機関を選ぶことが大切です。
・原因は不明だが、乳がんは増加傾向にある
・再発することもあるが、多様な治療法が確立されているため、死亡率は低い
・年齢や状況で「マンモグラフィ」と「超音波検査」を使い分けよう
山口俊晴
(やまぐち・としはる)
がん研究会有明病院名誉院長
バリューHRビルクリニック院長
消化器外科医。1973年京都府立医科大学卒業。 2015年に公益財団法人がん研究会有明病院病院長、2018 年より名誉院長。 2020年には、「人にやさしい検診」をコンセプトに検診サービスを提供する 医療法人社団バリューメディカルバリューHRビルクリニックの院長に就任。 胃がんの「治療ガイドライン」の作成委員(初版から3版)を務め、NHK「今日の健康」 「名医にQ」「チョイス@病気になったとき」などに胃がんの専門家として出演。 著書に『がん患者・家族からの質問―担当医としてこのように答えたい』(へるす出版) などがある。
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