「患者さんの中には、『自分の中にモンスターがいて、その子が暴れ出すような感じ。
コントロールが効かなくなっちゃうんです』と語る方も。
変化を起こすには、自分が治療したいという意志と、周りの理解があることが大切なんです」
産婦人科専門医・予防医療普及協会理事 三輪綾子医師
100秒メルマガでは、女性特有の健康問題や疾患について情報発信をしている三輪綾子医師に、あらゆる世代の女性、そして男性も知っておきたい「女性の健康」への向き合い方についてお聞きしました。全3回シリーズの第1回は「9倍に増えた現代女性の生理」をテーマにお届けします。
―生理に悩まされている現代女性はたくさんいます。しかし、婦人科への受診をためらう人は少なくありません。
まず知っておいてほしい事実として、平均寿命が延び、栄養状態が改善され初潮が早まり出産回数が減ったことで、
女性が生涯で経験する月経回数は、100年前は50回であったのが、現代では約450回と9倍にも増えています。
「生理が辛い」と感じつつ婦人科への受診を悩まれている方は、昔と違い現代の生理は
我慢すべき頻度ではないことを知り、「辛いかも」と思ったら是非一度来院して欲しいです。
医師が診察することで治療すべきかを判断できますし、病気の早期発見にもつなげられます。
受診して検査した結果、何も無ければそれで安心できますから。
―実際にどのような治療が行われるのでしょうか?
まずは問診や検査を行い、原因を突き止めた上で、治療方法を決めていきます。
漢方薬の処方や生活スタイルの改善で済む人もいれば、病気が見つかり手術する人もいます。
なかでも一般的なのが、黄体ホルモンと卵胞ホルモンという2種類の女性ホルモンを配合した「低用量ピル」を内服する治療方法です。
低用量ピルには1シート21錠あり7日間休薬するタイプのものや、飲み忘れを防ぐために7日分のブラセボ錠を追加した1シート28錠タイプのもの、最大120日間飲み続けられるフレックスタイプのものなどがあります。
また、IUSと呼ばれる子宮内に装着するタイプもあり、体質やライフスタイルに合わせて最適な治療法を選んでいくといいでしょう。
治療開始後、「こんなに楽になるならもっと早く受診すれば良かった」とおっしゃる
患者さんがたくさんいます。
―近年は、子宮内膜症を患う女性が増えてきていると聞きます。
女性の月経回数が増えたことにより、女性ホルモンに依存する病気全般が増えているのですが、
特に卵巣や膀胱、腸などの臓器と子宮がくっついてしまう「子宮内膜症」という病気は顕著に増えています。
最新の研究でも、子宮内膜症を患う人は10人に1人、しかも10代20代にも多いことがわかっています。
子宮内膜症は痛みを伴わない場合もありますが、生理痛が重い人ほど子宮内膜症になるリスクが高く、排便痛や性交痛も生じやすくなります。
さらに進行し大きく腫れた卵巣に細菌が付着すると、強い痛みが生じ、命に関わる場合も。
また、不妊症の人のおよそ半分は子宮内膜症であるとも言われており、生殖能力にも大きく影響してしまいます。
痛みを放置することは危険だということを、知っていただきたいですね。
―現代女性は、なぜこのような生理の問題を抱えるようになったのでしょうか?
私が最大の問題だと思うのは、このような変化に女性も男性も、そして社会も、十分に対応できていないことなんです。
実際に、「生理痛は我慢するものだ」という昔ながらの概念をいまだに引きずって、健康維持の仕方がアップデートされていません。
また、女性が社会で活躍できる機会が増えてきているのに対し、女性の生理を理解している人が企業内に非常に少ない点も問題です。
企業が女性のヘルスケアに取り組むことで、女性に対する理解が深まり、女性が能力を発揮しやすい社会になるはずだと考えています。
―三輪先生の書籍『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』では、みんなで女性のヘルスケアに向き合う必要性を示されていました。読者からはどのような反応がありましたか?
蓋を開けてみると、意外にも男性読者の方々から「知りたいと思っていた」というフィードバックをたくさんいただきました。
「課題感はずっと持っていたけれど、どこから手をつけていいかもわからなかった」と。
それはそうなんです。男性が理解しようと思ったところで、教材も充実してないし、個人差もある。
女性同士ですら、自分の生理を基準に考えてしまい、「私はつらくても頑張ってきているのに、あなたは何で休んでるの」と思ってしまうケースが多々あります。
ですから、まずはどういう原理で生理が来て、どのような問題が起きてくるかといった大まかな流れを知ってもらい、「生理の症状は、一人ひとり違う」ということを、みなさんに自覚していただきたいですね。
―生理の悩みを改善するために、どのような姿勢で向き合うといいのでしょうか?
ある患者さんの場合、「自分が自分じゃないみたいになるんです。
自分の中にモンスターがいて暴れ出すような感じ。コントロールが効かず、退職も考えたほどです」と、深刻な悩みを抱えて受診されました。
仕事上のストレスが生理痛やPMS(月経前症候群)の症状として強く出て、同僚に対して強く当たってしまったのだそうです。
彼女の場合、PMSのほかにも、通常のPMSよりも精神面に大きく影響が出てしまうPMDD(月経前不快気分障害)もあり、鬱っぽくなる、涙もろくなる、ちょっとしたことでくじけてしまうといった症状もありました。
そこで上司に相談し、人間関係のストレスを軽減できるよう環境を整えてもらいながら、低用量ピルを内服し、症状が改善するか見ていくことにしました。
さらに並行して、心療内科にも通院した結果、一番いい状態にたどり着くことができました。
彼女は現在も、周囲の理解により仕事を続けています。
このように、自分が治療したいという意志と、周りの理解を得て環境を整えることがすごく理想的なんです。
幸いにも最近はリモートワークが浸透し、隙間時間に通院したり、新しいピルを試して具合が悪くなった時に少し休んだり、治療しやすい環境になりつつあります。
キャリアを諦めず、ぜひ医師と改善方法を探っていただきたいですね。
―生理の時のイライラによって、人間関係がギクシャクしてしまったという経験を持つ方も多いと思います。イノベーションを起こすには、どうしたらいいのでしょうか?
まずは「生理のときの症状を知る」ことが大きな一歩となります。
生理前のイライラは、実は自分自身ではわかりづらいもの。自分の生理前の症状で思い当たる事を書きだしてみて、生理前のイライラが増えてないか、誰かにあたっていないかということを、自覚することから始めてみましょう。また、PMDDで心療内科にかかる場合は、生理に伴って症状が現れる旨を医師に伝えることも大切です。
―最後に、ご家庭の中でできることを教えてください。
生理による不調を、一緒に暮らす男性も理解していくことが大事です。
もちろん、生理について言いたくない女性もいると思いますし、難しい部分はあるとは思いますが、パートナーや家族だからこそ心を開き、症状が出てるにどうして欲しいのか、何がつらいのかを共有することでより良い関係になると思います。
まとめ
・生涯の月経回数が100年前から9倍になったことで、「子宮内膜症」の患者が増えている。
・生理の症状は、一人ひとり違う。環境を整えながら適切な治療を。
・男性も、生理や生理による不調を理解していくことが大切。
三輪綾子
(みわ・あやこ)
産婦人科医(THIRD CLINIC GINZA院長)
予防医療普及協会理事
2010年、札幌医科大学卒業。順天堂大学産婦人科学講座に入局。
産婦人科専門医、マンモグラフィ読影認定医、産業医。「予防医療普及協会」の理事として、女性特有の健康問題や疾患について情報発信していくためメディアに多数出演。
2022年、THIRD CLINIC GINZA(サードクリニック)を開院し院長に就任。著書に『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』(青志社)がある。
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